1977年の大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した作品です。といっても恥ずかしながら私にはこの賞がどういうものなのかよくわからないのですが、歴代の受賞者とその題名を見ると私好みであることは間違いなさそうです。
「太平洋の生還者」これは、先の戦争において戦時中にもかかわらずハワイの収容所で捕虜生活を送り、日本軍向けにばらまく投降ビラを作成した人たちの話です。「生きて虜囚の辱めを受けず」と教育されてきた大日本帝国軍人ですから、捕虜になるまでの話、捕虜になってからの話、また帰国してからの話のどれをとっても興味深い内容です。
「責任 ラバウルの将軍今村均」でも収容所の姿を垣間見ることができましたが、あちらは終戦後の戦犯(この言葉には抵抗がありますが)収容所が舞台です。これに対してこの本に書かれた収容所はまさに捕虜収容所であって、日本とアメリカは交戦中であったわけです。そんな中にあって利敵行為ともとれる(というかそのもの)行動を行った人たちがいて、本来であれば非難されなければいけないはずなのに読んでいて同情すら感じる自分がいました。これはどうしてなのでしょう。昔から現代の価値観で歴史を見ないようにしたいと思ってはいるのですが、やはり自分がその人たちの立場だったらどうするかという観点で見てしまっているのかもしれません。
戦後30年のころに書かれた本ですが、本人たちの希望から本名での記述は避けられています。残念ながら本文中に帰国後の記述は少ないのですが、捕虜収容所でビラ作りをしていたことが彼らの心に大きく影響していたことは間違いないでしょう。
著者の上司がこの生還者の一人であったことが、著者にこの本を書かせるきっかけともなったようです。この上司の死後、彼自身の手記が「私は玉砕しなかった―グアムで投降した兵士の記録」として出版されているようです。機会があったら読んでみたいと思います。
また、この収容所で彼らをまとめていたオーテス・ケーリ中尉は、元々、小学4年生まで日本で暮らした方ですが、戦後は同志社大学で活躍されたようです。彼にも色々と著書があるので、気になっています。
さらに著者の「洞爺丸はなぜ沈んだか」という本を読んだことがありますが、こちらも勉強になりました。