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 「三十八度線」という本を読みました。

 著者の佐々木祝雄氏は、文坪という場所にある朝鮮住友軽金属勤労部長の職にあった時に終戦を迎えました。日韓併合により、当事、朝鮮半島は日本の一部となっていましたが、終戦を機に三十八度線を境に北はソ連の支配下に置かれます。そこでは日本人の移動が禁止され、多くの苦難を味わいます。しかし、それを乗り越えて三十八度線を越えて日本に帰ってくる話が綴られています。

 終戦を機会に、ある意味、日本人と朝鮮人の立場は逆転します。私は、これまで抑圧されてきた人たちが一気に立ち上がり、日本人に対して強い態度で向かってくることをイメージしていたのですが、それは大きな間違いでした。確かに一部ではそういう動きもありました。それは当然のことです。しかし、著者に関して言えば多くの朝鮮人の人に助けられて三十八度線を越えたというのが実際のところです。

 脱出を決意するまでの、共産党管理下の工場での労働では、日本人・朝鮮人の区別無く一労働者として扱ってもらえたようですし、帰国を決意してからは工場の幹部に「帰郷証明書」なるものまで書いていただいてもらっています。実際、その後、三十八度線を越える時、この証明書は大きな意味を持ちました。三十八度線を目指して歩いている時には、赤ん坊を抱いて歩いていた奥様を見かねて、見知らぬ婦人が赤ん坊を抱いて一緒に歩いてくれたこともありました。最後の最後、三十八度線を超える時には、保安隊の人にも黙認され、勇気付ける言葉さえかけてもらっています。

 著者の場合、日本人・朝鮮人を問わず他人に対して良くしてあげたことが、必ずや回りまわって自分に返ってきていることも興味深いです。「情けは人の為ならず」の言葉の通りです。途中、知り合った朝鮮の青年からは次のような言葉をもらっています。

朝鮮の人は、日本人に対しては特別の勘を持っていて、この日本人は終戦まで朝鮮の人を大事に扱って来たかどうかを、容易に見分けることが出来ます。犬でも猫でも、可愛がってくれる人間は、よく知っていますからね。あなたはきっと朝鮮の人によくつくして来た人に相違ありません。これから先どんなことが起きても、朝鮮の人は、あなたたちを見殺しにするようなことはないと思いますから、心配せずに元気を出して行きなさい。

 「反日感情」というのはやっぱり、戦後、教育によって醸成されていったものなのかなという気持ちにもなりました。

 もともと自費出版された本のようですが、著者の没後、中公文庫として出版されています。私はその本を図書館から借りて読んだのですが、既に絶版のようです。ネットで検索すると古本屋のリストに出てくるので、残念ながら、そういう本を探すしかないのかと思いますが、おすすめです。久しぶりに夢中になって読み進めた本でした。