何気なく図書館で手にとって読んだ本「東京のそうじ」です。東京という大勢の人が住む場所で、たくさんのゴミや不用品が誰の手によってどのように処理されているか、緻密な取材によってわかりやすく書かれた本です。もともと最初に発行されたのが1987年12月なので今から20年近く前の話です。だから、今も同じ方法で行われているのかどうかはわかりません。逆に今はどのように処理されているのか調べてみたくなる内容です。
複数の話から構成されています。6つあって、「新幹線のそうじ」「国際線旅客機のそうじ」「糞尿のそうじ」「犬猫のそうじ」「浮浪者のそうじ」「競馬場のそうじ」です。
「新幹線のそうじ」と「国際線旅客機のそうじ」については、なるほど大変な作業であることはよくわかったものの、そうじそのものが何となくイメージできてしまうだけに特に感動したりはしなかったのですが、その続きにはびっくりしました。「糞尿のそうじ」と「犬猫のそうじ」です。
まず「糞尿のそうじ」ですが、その名の通り、バキュームカーで汲み取り便所から集められたウンコやオシッコの処理です。今でこそ下水道の普及率が進み、汲み取りの家はごくわずかでしょう。でも、20年前ともなると東京二十三区の下水道普及率は83%で、まだ13万4080戸が汲み取り便所だったそうです。それらの便所から汲み取られたし尿はどう処理していたか知っていますか? てっきりどこかで処理して下水に流していたのかと思っていましたが、なんと船で野島崎沖に運ばれて黒潮に海洋投棄されていたのです。そして、船積みするためにし尿が1箇所に集められていた場所は東京都清掃局大井清掃作業所です。当時はりんかい線がありませんでしたが、今で言えばりんかい線の品川シーサイド駅から歩いて7分のところだそうです。今でもあるようです。でも、海洋投棄は平成10年度で廃止され、平成11年4月からはここでし尿の処理を行った上で下水道に放流しているそうです。集められるし尿の量も減ったのでしょうね。この「糞尿のそうじ」の章では、バキュームカーでし尿収集の仕事に従事していた人の興味深い話もたくさんありました。
次に「犬猫のそうじ」です。そうじってどういう意味かわかりますか。つまり、飼い主の見つからない犬や猫の終末処理です。その場所は、東京都動物管理事務所・動物愛護センター。本書中で「東京の一等僻地と揶揄されている」と書かれている城南島にあります。終末処理の描写は細かくなされています。追い込み機と呼ばれる機械で犬猫を小さなステンレスの箱に追い込み、炭酸ガス処分機で殺処分、死骸は動物焼却炉に落とされ、最後は灰ボックスに集められるそうです。昭和61年度にここで終末処理を受けた犬は1万3226で、猫が2万9892だそうです。以前、「捨て犬、捨て猫 (雑司ヶ谷霊園)」でも書いたようにこの数は年々減ってきてはいるのでしょうが、悲しい数字です。今でも同じ場所には動物愛護相談センター城南島出張所というのがあります。すぐ近くには城南島海浜公園もできていて、本書の執筆当時のような寂しい場所ではないのでしょうが、やっぱり今でもここで終末処理が行われているのでしょうか。
文庫本のあとがきで著者は、最初は単に「東京のそうじ」のメカニズムを解くことを目的としていたが、それが取材を続けるうちに対象が人に移っていったという旨の言葉を残しています。読んでみて、それがよくわかる一冊でした。