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重大事件に学ぶ「危機管理」

 時々テレビに出ていたのを見ていましたが、失礼ながらこの佐々(さっさ)氏がいまいちどういう人なのか知らずにいました。何年か前に「連合赤軍「あさま山荘」事件」を読んだ時に、彼がこの事件の現場指揮を執った人だと知りました。その後、数ある大事件の裏には常に彼の名前があったことも知りました。そんな著者の「重大事件に学ぶ「危機管理」」を読みました。

 ビジネスマンを読者と想定して書かれているのだと思います。悪く言えば、ビジネスマン向けのハウツー本とも言えます。でも、普通その手の本はうんちくを並べてあるだけで読む気にもなれません。その点、本書の著者には人並みはずれた危機管理の体験があります。その体験に基づいて実話が各所にちりばめられています。どちらかというとノンフィクションの読み物のように楽しむことができました。

 彼は指導者の資質を「治世の能吏」と「乱世の雄」に分類します。いわゆる減点主義で何も失敗がなければ上に行ける官僚に多いのが前者です。著者のように油断は煙たがられ敵も多い一方、いざとなれば「私がやらずに誰がやる」の精神で頑張れるのが後者です。そして、組織の中には後者のような存在も必要なことを説いています。

 本書の中での説明には多くの実話が添えられています。「クライシス・マネージメント」という英語から「危機管理」という日本語を作り出した著者ならではの話ばかりです。

 どれもとてもおもしろいのですが、中でも印象に残ったのが三原山大噴火の時の対応です。中曽根康弘総理大臣に、後藤田正晴官房長官、著者は内閣安全保障室長の時の話です。三原山の溶岩が元町に迫るという事態に対し、担当官庁の国土庁は夕刻から19関係省庁の担当課長を集めて会議中です。業を煮やした後藤田氏(著者は警察庁時代からの永遠の上司として敬っています)が中曽根総理の特命の扱いで著者に島民を避難させるに十分な船舶を用意させてしまいました。南極に向かう途中の観測船「しらせ」までもを大島に向かわせたそうです。国土庁が会議を終えたのが午後11時45分。その頃には既に島民の非難準備ができていたということになります。信じられないのはこの会議で何が討議されていたかということです。第一の議題がこの災害対策本部の名前を何にするか(大島災害対策本部か三原山噴火対策本部か)で、第二が元号を使うか西暦を使うかだったそうです。今だからこそ笑えますが、これは素人目に見ても危機管理能力がゼロだったと言えるでしょう。。

 ネガティブリポートの推奨など、実践ですぐに使える技術も満載なのですが、実は、上のような手の実話を読むのが何より楽しかったりした本でした。ミグ25による亡命事件での、関係省庁間でのたらい回しの話も笑っちゃいます。