講談社学術文庫「アウシュヴィッツ収容所」(ルドルフ・ヘス著 片岡啓治 訳)を読みました。

アウシュヴィッツ収容所は、第二次世界大戦中、ナチスドイツの反ユダヤ政策の犠牲となって多くのユダヤ人がガス室に送られ虐殺された場所です。

著者ルドルフ・ヘスは、このアウシュヴィッツ収容所の所長だった人です。ナチスドイツの副総統ルドルフ・ヘスとは同姓同名ですが別人です。

彼は上からの命令を忠実に遂行したまでとし、淡々と過去の記憶を綴っています。特に後悔の言葉はありません。

これから「チクロンB」と呼ばれる青酸ガスで殺されるであろう人たちを動揺させないため、消毒のためだと言って服を脱がせて密室に押し込みます。騒ぎ出した人がいれば見えないところへ連れて行き銃殺し、動揺が広がらないようにする手はずが整えられていました。嫌がる子供たちにはやさしく接し、母親の手に抱かせることで安心させてガス室に連れて行きました。ガスを噴射するとどのように人々が死んでいくかも淡々と綴っています。死者からは、持参してきた貴重品だけでなく金歯や頭髪を奪い取りました。ユダヤ人の遺体の処理には同胞も従事したそうですが、ある者は遺体の中から自分の妻を見つけたが、一瞬たじろいだだけでその後はいつも通りだったなどという忌まわしい記述もありました。

どうすると、人間はこうも無神経になれてしまうのでしょう。恐ろしいです。

彼を援護する気持ちは毛頭ありませんが、自分が徐々に彼と同じ立場に立たされていったらどう行動するだろうか考えてみました。正直、悪いことは悪いとはっきり言える自信はありません。つらいところです。昨今の企業不祥事などを見ても、これと同じような構造で不正が不正と認識されなくなって行くのではないかと思います。

しかし、そういう状況は一朝一夕に訪れるわけではないはずです。そういう状況になりつつある予兆を感じ取って早めに対策を打つしかないわけで、そういう視点で物事が見られるようになりたいと思います。