山田うどん」は現在では関東一円に低価格なうどん、そばの販売をチェーン展開しているお店です。私のように山田うどんと共に育った人間は何ら違和感を感じないのですが、初めて山田うどんの存在を知る人はまずそのネーミングにびっくりするようです。

確かに言われてみればどことなく朴とつな雰囲気の漂う名前です。よくよく考えれば(失礼ながら)「山田」という名前そのものにそういう雰囲気があるのかもしれませんが、「うどん」の持つイメージと相まって相乗効果をかもし出している気がします。

私は物心が付いた時にはすぐそばに山田うどんがありました。実家が山田うどんの本店のすぐ近くだったのです。カップヌードルの話で土曜日のお昼ごはんについて触れましたが、この山田うどんも土曜日のお昼によく利用させてもらってました。

今から25年以上前の話ですが、山田うどん本店の店舗はかなり質素な作りをしていました。テーブル席などはもちろん無く、Uの字のカウンタが2本だけありました。カウンタの奥には厨房があって、カウンタの外にお客、中に店員という、今の吉野家のようなスタイルでした。

入り口は一箇所ではありませんでした。店舗を上から見てを長方形とすると、そのうち2面がスライドドアになっていて、どこからでも入ることができ好きな席に座れるようになっていました。入り口のすぐそばには小さな洗面台があって、手を洗うこともできました。カウンタから厨房の方を見るとその左右の天井近くに招き猫ならぬ、たぬきときつねの剥製が飾られ、お客さんたちをにらみつけていました。山田うどんの基本はたぬきうどん(そば)ときつねうどん(そば)ですからね。

当時はまだセットメニューなどありませんでした。私がよく頼んだのはカレーうどんでした。ゆで玉子をつけることもありました。ゆで玉子を注文すると、給食のアルミ容器のような入れ物にゆで玉子と塩を入れて持ってきてくれるのでした。アルミ容器は結構大きく、玉子の殻はその中に入れて返す仕組みでした。なかなか考えられていたと思います。

食後の支払いも吉野家同様、その場で行いました。レジなど無く、カウンタの内側に置かれたトレイにそのまま現金が入れられ、おつりが必要ならばそこから取り出して返してくれるのです。トレイはゆで玉子の容器と同じだったのではないかと思います。子供の背丈ではカウンタの中を詳しく見ることは難しかったのですが、これに関しては忘れられない思い出があります。明治生まれの祖父と山田うどんへ行った時のことです。私と弟はカウンタ内にあるお金の入ったトレイが気になって仕方なく、カウンタ越しに上半身を乗り出して覗こうとしていたのです。そしたら、その祖父に怒鳴られました。「みっともないことをするんじゃない」って。今でも鮮明に覚えています。最近そんな話を弟としたら3つ下の弟もよく覚えていました。その祖父から教えてもらったことで記憶に残っていることはこれだけなのですが、良いことを教えてもらったと感謝しなければなりませんね。

さて、話を山田うどんに戻しましょう。その当時、店舗の横には製麺工場がありました。木造の壁でかなり古めかしい感じの工場でしたが、中からは製麺の機械の音がバッタンバッタンと聞こえていました。外には製品の乗ったトレイが重ねられていて、確か「栃木」などと行き先が書かれていたように覚えています。この工場がいつどのように無くなっていったのか記憶に無いのですが、一時期、敷地内で地下掘削のボーリング作業をしていたこともありました。温泉を掘っていたのか井戸水を掘っていたのかわかりませんが・・・。

山田うどんといえば、給食に出てきたソフト麺でもお世話になりました。ミートソースやしょうゆスープを容器の配り、ビニールに入った麺をその中に入れて食べるのです。あの麺が山田うどん製でした。今思えば、先割れスプーンで麺類を食べていたんですよね。ある意味、器用なことをしていたと思います。

昔は今よりも山田うどんの店舗数は多かったんじゃないかと思います。あちこちで山田うどんの案山子の看板に出会うことが出来ました。私が一番驚いたのは晴海の勝鬨橋近くにあった山田うどんでした。確か看板に大きく「所沢名物 山田うどん」と書かれていたのです。はたしてあれは集客効果があったのでしょうか・・・疑問です。

山田うどんの店舗数も多かったですが、昔はラーメン系の店舗も展開していました。カントリーラーメン(カントリーラメンだったかも)です。ニューヨークにも支店があると店内には書かれていて、さすが山田うどんだなあと小さいながらに感心した記憶があります。所沢駅西口のプロペ通り入り口の地下にも店舗があって、それなりにうまくやっているのかと思っていましたが、いつの間にか無くなってしまいました。

さて、Uの字カウンタ2本で営業していた山田うどん本店ですが、その後、何度かの改装工事を経て、今のような綺麗な建物になりました。入り口では店員さんが席まで案内してくれます。最初にカレーセットが出てきたときには感動したものですが、今ではそのセットメニューも山のようにあります。おもちゃ付きのお子様メニューすらあります。昔は家族連れで山田うどんに入るには勇気がいりましたが、今では何も問題ありません。ボタンで店員さんを呼び出すこともできます。大きな声で「すみませ〜ん」と店員さんを呼び出す必要もなくなってしまったのです。

しかし、これだけ店の雰囲気が変わったにもかかわらず、たぬきやきつねが今でも250円で販売されている点は賞賛に値します。さすがに昔からは少し値上げしていますが、今どき駅の立ち食いでももっとするんじゃないでしょうか。