脱北し韓国に亡命した元北朝鮮人民軍中尉による北朝鮮、特に朝鮮人民軍内部の記録です。著者は反体制ビラをまいたことで国家保衛部から狙われ、中国経由で「祖国」からの脱出をしました。軍内部では小隊長を務めていただけに記述内容なとてもリアルです。
最近ではテレビなどでも放送しているので有名になりましたが、北朝鮮には出身成分という身分階級があります。過去3代までさかのぼって決まります。著者の場合、お父さんが韓国出身者であったがために敵対階層に位置づけられ、子供の頃は山奥の山村に移住させられたりもしました。その著者が人民軍の中尉にまでなれたのは本人が優秀であったのは間違いありませんが、そのほかに賄賂も重要なのだそうです。人を動かすためには賄賂が必要という社会なんだそうです。ちなみに、「地上の楽園」と宣伝され日本から北朝鮮に帰った在日朝鮮人の方々も出身成分上は敵対階層に位置します。悲惨な生活を送っていることは想像に難くありません。
また、徹底した監視社会でもあります。怖いのは身近な人間までもが当局の指示によりスパイになるという仕組みです。著者の場合、反体制ビラをまいた「犯人」として国家保衛部に目をつけられてから、入れ替わり立ち代り部下や友人が探りを入れにやってきます。これはとても不気味です。いや、もう不気味さを通り越して滑稽ですらあります。
日本人として知っておかなければいけないこともあります。著者の情報を総合的に見ると、北朝鮮では既に核兵器と化学兵器を開発済みであると言えることです。そして、その標的の一つはもちろん日本です。戦略上、日本にある米軍基地を叩く必要があるからです。さらに問題なのは彼らの軍事品の多くは日本から輸出された民生品を転用したものであるということです。つまり、我々は自分たちで自分の首を絞めているかもしれないのです。
著者が亡命したのが1993年。既にその時点で人民軍兵士は日本との戦争を想定し、日本の自衛隊の指揮体系や兵器知識を身につけ、日本語で「手を挙げろ。武器を置いて投降すれば生命はとらないでやる」と言えるような教育までなされているとのことです。それから12年が経っていますが、北朝鮮ではどんな変化が起こっているのか、さらに気になるところです。