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クリント・イーストウッドの硫黄島の映画」で述べたように硫黄島に関する本を読んでいますが、「「玉砕総指揮官」の絵手紙」に続いて「散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道」を読みました。

昨年の夏(2005年7月)に出たばかりの本です。まず最初に目が行ったのは、著者が1961年生まれの女性であるということです。60年代というくくりで言えば同世代になる方がなぜ今栗林中将、硫黄島なのだろうと考えてしまいました。

本書は、著者による関係者へインタビュー、栗林中将からの手紙、史実などを踏まえて、硫黄島の玉砕までの流れの中で栗林中将の人間性を描いています。戦時中のことが書かれた本となると、所属や階級、その他軍隊独特の用語などが多く使われ読みにくいことがよくありますが、この本は違いました。不思議とスラスラと読める本でした。

家族想いであったことは先に読んだ家族への手紙でもよくわかりました。戦場から家族に向けて、台所の隙間風を気にしたり、お風呂の水の汚れを効率よく取る方法を書き送ったりと常に家族のことを考えている姿がよくわかります。また、これに加え、本書では末端の兵士に至るまで気にかけていた様子が色々なエピソードから伝わってきます。現に彼を慕って副官の藤田中尉は一緒に硫黄島に渡ったそうです。本の冒頭インタビューで登場する軍属であった貞岡さんもその一人で彼を慕って父島まで追いかけて行ったという話が紹介されています。

栗林中将は、彼の硫黄島での任務を1日でも長く米軍をこの島にひきつけておく事と考えていました。硫黄島が米軍の手に渡れば日本本土への空襲が容易になってしまうからです。そのためにバンザイ突撃を禁じ、最後は自ら先頭に立って戦ったということです。

留学経験があってアメリカに詳しく、それゆえに中枢から煙たがられて、還ることのできない硫黄島に送られたという見方もあるそうです。彼が大本営に送った電文から読み取れる中央に対する批判も紹介されています。この本の題名にもなっている時世の句「国の為重きつとめを果たし得で 矢弾尽き果て散るぞ悲しき」は当時、大本営によって改ざんされ「散るぞ口惜し」として発表されたそうです。当時の情勢の中、最後の最後まで彼の気持ちは無視されたということでしょうか。

以前、「栗林忠道中将〜精根を込め戦ひし人」でも読んだことがありましたが、硫黄島での慰霊祭の様子も描かれています。世界広といえども、かつての敵同士が合同で慰霊祭を行う場所は硫黄島くらいなんだそうです。日本にとってもアメリカにとっても聖地であることがよくわかりました。

そういえば、「「玉砕総指揮官」の絵手紙」に登場してきた長男の「太郎君」と次女の「たこちゃん」は昨年、一昨年とお二人ともお亡くなりになられたと謝辞に書かれていました。ご冥福をお祈りいたします。