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たった一人の30年戦争

 ずっと気になる存在であった小野田さんの著書を読みました。ものすごく頭の良い人ですね、きっと。文章も読みやすく主張も一環しています。

 小野田寛郎さんといえば、戦後30年にわたってフィリピンルバング島に残置諜者として潜伏し、任務解除の下命をもって日本に帰還された人です。1974年に日本に帰ってきた時、私はまだ小学校に上がる前でしたが、子供ながらに報道は覚えています。

 この本は1995年に書かれた本なので既に10年以上前の本です。戦後30年をルバング島で過ごし、それから20年後に、当時やその後の事を織り交ぜながら書かれた本ということになります。

 ルバング島のジャングルにいた間は、何度も日本からの捜索隊に出会っています。肉親も何度も足を運んでいます。そして、小野田さんをそれを森の中から見ています。でも、それを敵の謀略として一笑に付しています。このあたりは彼が陸軍中野学校二俣分校の出身者であるからでしょう。以前、「秘録・陸軍中野学校」を読みましたが、なんとしてでも生き延びて任務を遂行するのが中野学校の教えですから。小野田さんはルバング島での最後の頃はラジオで日本の競馬中継まで聞いていたそうです。でも、残置諜者として表の世界とは別の裏の世界の存在を信じてらしたのでしょう。

 本の中ではルバング島でのことを現在と照らし合わせてわかりやすく記述されていますが、失礼ながら一番おもしろかったのは彼を日本に帰還させるきっかけを作った人、鈴木紀夫さんとの遭遇シーンでしょう。小野田さんが51歳で戦争継続中のところに、24歳の戦後生まれの青年がやってくるとどういう会話が行われるのか・・・本当に事実とは小説よりも奇なりです。小野田さんにとっては最高機密である銃弾の残数を、何のためらいも無く聞いてしまう鈴木さん、ふたりは親子ほども世代が離れています。でも、彼だったからこそ小野田さんと話ができたのかもしれません。2005年夏にフジテレビがドラマ戦後六十年スペシャルドラマと題して「実録・小野田少尉 遅すぎた帰還」を放映しました。中村獅童さんが小野田さんを演じたドラマです。この時も鈴木さんとの遭遇シーンが非常に印象深かったのですが、あの奇妙なやりとりが事実だということがこの本でわかりました。この遭遇の後、鈴木さんは小野田さんの上官である谷口義美さんを連れて再度ルバング島にやってきます。そして、任務解除となりました。

 ルバング島での小野田さんには仲間もいました。しかし、二人は戦争継続中に射殺されてしまいます。小野田さん自身は戦後に仲間二人を「戦死」させてしまったことに大きな後悔をいだいています。その一方で、仲間だった別の一人が「脱走」したことには強い憤りを感じています。投降したのです。そのことを帰国後すぐの本で書いたところ「戦争は終わっていたのだから責めることはおかしい」とたくさん反論をもらったそうです。それでも、彼は間違っていないと言います。殺すか殺されるかの戦場において仲間の裏切りほど怖いものは無いのです。それは、ルバング島で任務解除を受けた時の小野田さんの目つきからも伺えます。その後しばらく経ってからの写真と見比べると、恐ろしいくらい顔つきが違います。常に生死の隣り合わせの状態で緊張が持続しているとああなるのでしょう。

 帰国後、小野田さんはブラジルに移住し牧場を経営します。どうもこの辺りの苦労は帰国後の「戦友」となられた妻、町枝さんの「私は戦友になれたかしら―小野田寛郎とブラジルに命をかけた30年」という本に詳しいらしいので、今度機会があれば読んでみようと思っています。

 その後、日本で小野田自然塾というものを作り、青年育成にも力を注がれているようです。それなりに高齢になられていると思うのですが、その貴重な体験を基に色々と多くのことを語っていただきたいと思います。