ぼくは痴漢じゃない!―冤罪事件643日の記録
一部上場企業の課長だった鈴木さんは平成10年、通勤途中の京王線の中で痴漢に間違われました。その後、1年9ヶ月かけて無罪を勝ち取ります。その間、勤務先は退職しなければならなくもなっています。その一部始終がこの本の中に凝縮されています。
この話は誰にでも起きる話です。「無罪を勝ち取る」と書きましたが、事件の性質上、頑張れば無罪が証明できるものでもありません。鈴木さんは駅のホームで被害者となる女性に痴漢と間違われ、駅員室へ、そして警察に連れて行かれます。話せばわかってもらえるだろうと言われるままについていくわけです。私でもそうするでしょう。でも、他の痴漢冤罪事件同様、この考え方は甘いようです。法的には、女性に間違われた時点で、彼は「私人による準現行犯逮捕」されているのです。怖いですね。
卑劣な痴漢行為に対して、女性は弱者といえます。痴漢行為そのものは断罪されなければいけません。でも、この本を読んで、男性もある意味、弱者なんだなと感じざるをえません。変な話、ある女性がある男性を「痴漢です」と警察に突き出せば、この男性は何もしていなくても、おおかた有罪になってしまうのです。
この本の中に出てくる被害者の女性は本当に痴漢されたのかもしれません。鈴木さんに対して恨みでもない限り、何かしらの痴漢行為の被害者であったことは事実かもしれません。でも、その犯人を鈴木さんと間違ったばかりに、鈴木さんがその後歩んだ苦労はあまりにも大きすぎます。
私も痴漢に間違われないよう、いつも自衛しています。かばんは肩からかけて前におきます。こうすることでどんなに押されても前の人との間にスペースができます。また手はつり革、もしくは、肩から提げたかばんのベルトを握るようにし、まちがっても周りから見えない位置にはおきません。一部の痴漢犯罪者のために被害を受けているのは、女性だけではないのです。
本書「文庫本のあとがき」に鈴木さんの今が書かれています。かなり波乱万丈な生活を送ってきたことは想像に難くないですが、その結末(といっても、あくまで現状ですが)には「えっ!・・・あ、そう・・・なるほどね・・・」と思わずうなってしまいます。